「ある外国人相撲取りのお話」
異国の地でレスリングに没頭していた16歳の少年は
ひょんなことから日本の相撲取りになりました。
慣れない文化、通じない言葉は
まだ子供だった彼にはとても大きな試練だったでしょう。
それでも彼は持ち前の運動能力の高さで
厳しい稽古にも負けず、どんどんと強くなっていきました。
「いずれは横綱に。」
応援してくれている周りの大人は、きっとそう思っていたに違いありません。
でもね、
若い少年にとって、親元から離れた異国の地での生活は
決して楽なものではありませんでした。
お金もそこそこ稼げるようになり
周りのみんなからも注目され
少し浮き足立っていたんでしょうね。
残念な事に、「薬」に手を出してしまったんです。
気の許せる仲間との「悪く楽しい時間」は
少しずつ、彼を辛い事から逃げさせていきました。
しかし、本業を厳かにしてどっぷり使ってしまったぬるま湯は
いつまでも温かいものではありません。
「逮捕」
「相撲協会解雇」
といった、最悪の冷水を浴びてしまいました。
今まで応援してくれた沢山の人間は傷つき
相撲が大好きだったファンはがっかりし
マスコミは騒ぎ立てました。
相撲から離れ
職を失い
一人になり
彼は失望、悲しみ、怒りを感じたに違いありません。
悪い事をしたのだから当然だという思いと
なんでオレだけ、という思いの葛藤で
髭をそるのも忘れ
乾いた時間を過ごしていきました。
でも、やはり少年の心には良心が残っていたのでしょう。
自分が失ったものの大きさにも気が付いたのでしょう。
みんなに謝りました。
迷惑をかけた人
今まで応援してくれた人
そして野次馬にも。
頭のいい冷静な大人は
彼が動揺し、もはや死に体であることに気が付いていました。
そして、簡単に利用できる状況である事も。
まず一人、彼を守る立場を取りながら
自分を世の中に売り込もうとする大人が現れました。
連日連夜、マスコミの取材に応じ
テレビに出演して
彼の顔と名前は瞬く間に世の中に知れ渡りました。
次に、話題性に目をつけた大人が
自分の雑誌と裁判の行方に利用するため
まったく関係のない「やらせ」の告発に使いました。
冷静で、冷酷な大人の隣で
この少年はずっと死んだ目をしていました。
無我夢中というよりも
自暴自棄になっていた少年はいつしか
みんなから嫌われる存在となりました。
相撲に戻る事も出来ず
日本に残る事も出来ず
すべてを失って、自国に帰ることになりそうです。
確かに、彼はそれだけの事をしたんです。
馬鹿だった、
天狗になっていた、
気持だけが子供で
年齢と身分は、すでに大人になっていました。
罪は償って欲しい。
裏切った人たちには、心から謝って欲しい。
でも誰も彼に、つぶれるまで
立ち直れないくらいになるまで
自分を見失わないで欲しいと思っている。
だから、頭の良い大人の皆さん
もうこれ以上、彼を利用するのはやめてください。
溺れている人間に
内心ニヤニヤしながら
優しい表情だけを取り繕って
藁を投げるのはやめてください。
野次馬は、必死にもがき続ける少年に視線を集め
非難の声を浴びせ
冷徹に彼を利用した大人には見向きもしようとしません。
同じ状況って
世の中に沢山あるんだろうな。。。
金曜日の夜に
「ある相撲取り外国人のお話」という本を
子供たちに読み聞かせながら
なんだかちょっと淋しくなった皮膚科医の独り言でした。
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