ステロイド外用剤は、皮膚の免疫反応を広く抑制し抗炎症作用を起こすことが知られています。
そのため、アトピー性皮膚炎の治療においては非常に有用です。
しかし、長期的な使用によって皮膚局所への副作用が出現したり、不適切な使用による合併症が起きることが問題でした。
そこに登場したのがプロトピック軟膏です。
プロトピック軟膏の成分となるタクロリムスは、もともと臓器移植の拒絶反応を抑制する目的で開発されたお薬です。
それを外用剤として応用したのがプロトピック軟膏です。
話が少しそれますが、ステロイド外用剤も始まりは関節リウマチ患者さんに有効であったステロイド内服薬を、全身への副作用が少なくなるように外用剤として使われたた経緯があります。
さて、このプロトピック軟膏、ステロイドとは違う作用機序でアレルギー、炎症を抑えます。
ステロイド外用剤が幅広い抗炎症作用であったのに対し、プロトピック軟膏は白血球の一部であるTリンパ球の機能を抑制することでアレルギーの炎症を押さえ込みます。
念のため記載しておきますが、プロトピック軟膏にリバウンド現象などというものは起きません。
「プロトピック軟膏のリバウンド」という言葉を流布しているのは、現代医学を否定することで自らのアトピービジネスを反映させようとする医療者のみです。
このプロトピック軟膏にはステロイド外用剤に比べ、いくつかの利点があります。
① プロトピック軟膏の分子量は通常の皮膚から吸収される分子量より大きい。
これは、正常の皮膚からはプロトピック軟膏が吸収されず、炎症のある部位でのみ吸収されるということです。
湿疹が起きているところにプロトピックを塗り始め、炎症が収まるとその部位からは吸収されづらくなります。
つまり副作用が起きづらくなるということです。
② プロトピック軟膏は皮膚のバリア機能を落とさない。
ステロイド外用剤は皮膚のバリア機能を落とすことが知られています。しかし、このプロトピックはバリア機能を落としません。
感染防御に対しても、プロトピックの方が優れていると言えます。
③ 長期的に使用しても皮膚局所への副作用を起こさない。
ランク3以上のステロイド外用剤は、皮膚局所への副作用を考えると顔面に使用するということが少なくなります。しかし、プロトピック軟膏は皮膚局所への副作用がないため顔に使うことが出来ます。
またその他の部位でも長期的に使うことが可能です。
例えばステロイド外用剤で皮膚が薄くなった肘の内側。ここをプロトピックに変更してしばらく経過を見ると、皮膚がもとに戻っていく症例が学会ではよく提示されます。
このようにステロイド外用剤だけでは克服出来なかった問題、副作用のハードルを乗り越えてくれたのがプロトピック軟膏です。
正しく使えば、これほどアトピー治療に有用なお薬はありません。
さて、これからは皆さんが気になる注意事項です。
① 使用初期はヒリヒリしたり、刺激を感じることが多い。
ただし、これは使用を続けていけばいずれ消えます。
ヒリヒリしなくなることは、炎症が落ち着いて皮膚が正常に戻った為、プロトピックが吸収されなくなったんだな、と思ってください。
② 感染部位や傷口には使わないこと。
プロトピックが作用を発揮するT細胞は、感染の現場でも重要な働きを担っています。
傷口、飛び火、水いぼ、ヘルペス、水虫などの感染部位には使用しないこと。
そして最後
皆さんが気になるところは
③ 実験用のネズミにプロトピックを長期間外用することで、リンパ腫と言う癌の増加が見られ、また、プロトピック外用中に因果関係は不明だがリンパ腫が見られたとする報告が海外である。
とする部分ではないでしょうか。
ネットでプロトピックについて検索し、使うことをひるむ理由はずばりこの最後の部分であると思います。
この解説については、一番最近の国際紙に発表されたUCSFからの論文
"Unknown Risks" of non-steroid topical medications for atopic dermatitis.
Int J Dermatol. 2007 656-658
を参考にさせて頂き、解説してみようと思います。
まず、元となるネズミの実験
これはプロトピック軟膏を2年間BL6C3Fiというネズミに塗り続けたものです。
まず、このネズミの2年というのは人の一生と同じくらいの長さであるということを知っておいてください。
0.1%プロトピック軟膏(成人用)を塗り続けた場合、ネズミにリンパ腫が出現したと始めの研究では報告しています。
しかし、ネズミの皮膚は人に比べて非常に薄い。
リンパ腫が起きたネズミの血液中に含まれていたタクロリムス(プロトピック)の濃度は、臓器移植後に免疫抑制で内服に用いられるタクロリムスの最大濃度の26倍もありました。
また、0.03%プロトピック軟膏(小児用)を使っておこなった実験でも
血液中のタクロリムス(プロトピック)の濃度は、内服のそれに比べ10倍多いものでした。
しかも、この血中濃度ではネズミにリンパ腫を作りません。
これらのデータは、以下にネズミがお薬を吸収しやすく、血液中に増加させているかも示すものです。
面白いことに、このタクロリムス(プロトピック)を免疫抑制に使う最適の内服量の9倍を、ネズミに飲ませてもリンパ腫は出来ませんでした。
また、もともとこの実験に使ったBL6C3Fiというネズミ。これは自然に飼っていてもリンパ腫が起きやすいネズミとして知られています。
人では癌を全く起こさないような物質ですら、このネズミにはリンパ腫を起こすことができます。
ちょっと難しかったですね。
簡単にまとめます。
ネズミの2年間(人で言う一生)をかけプロトピック軟膏を外用しました。
ネズミの皮膚はとても薄く、血液中には人で使う26倍近いタクロリムス(プロトピック)の濃度が検出されました。
しかも、このネズミ、放っておいてもリンパ腫を作ることが知られています。
このような特別な状況において、プロトピック軟膏はネズミちゃんにリンパ腫を引き起こしていたのです。
次に
海外で見られた人におけるリンパ腫の発生とはどんなものか?
これはプロトピック軟膏を使用した約7000の患者さんのうち、2名にリンパ腫が見つかったというものを元にしています。
注目すべきなのはこのリンパ腫を起こした二人。
一人は68歳。このプロトピック軟膏の外用開始前から耳下腺に出来物が合ったことには気がついていました。そして、このプロトピック軟膏の調査が始まり、この出来物がリンパ腫であるということが解ったのです。
プロトピックを使う前からもともとリンパ腫があった患者さんを、試験に含んでしまったんですね。
もう一人は60歳。
この方は7年ぐらい全身の湿疹ということで治療を受けていたあとに、プロトピック治療の調査群に入りました。
この全身の湿疹と言うのが、実は皮膚のリンパ腫だったという症例です。
つまり、もともと誤診があって、皮膚リンパ腫の患者さんを湿疹だと思って治療していて、それからプロトピックの調査に入れてしまった、ということ。
こうやって一つ一つ症例を見てみると、7000例中2例にリンパ腫が発生したという報告がいかにお粗末なものかわかると思います。
というわけで、
ネズミさんの実験でも人の場合でも、
プロトピック軟膏がリンパ腫を起こす原因となる
と脅すには不十分であることがわかりますね。
プロトピック軟膏は、正しい使い方、正しい使用量(成人では1回5g、1日2回まで)を守って使えば、ビクビクする必要はありません。
非常に良いお薬です。
長くなりましたが、最後に皮膚科学会に苦言です。
アメリカのFDAや厚生労働省では、プロトピック軟膏と発がん性の関係について医者は説明しないといけません、とルールを決めています。
実際、プロトピック軟膏とリンパ腫には関係はないという結論なんですが、あくまでもルールはルールです。
学会に行くとたまに、このルールを無視した発言が聞かれます。
医者から説明をうけないでネットで知った時、患者さんが医療不信に陥る可能性があります。
皮膚科の先生方、忙しくてもきちんと外来で説明してあげてくださいね。
というか、外来でこの説明はしょってると、
後で痛い目の合うのは僕ら皮膚科医のほうですぜ。
こんなところで腋が甘いのは学会としてよろしくないと、敢えて内部のものが言わせて頂きました。
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